医療法人のM&Aにおけるスキーム

はじめに

ホームページ経由でのご相談が多い内容が、「M&Aでの妥当な対価」と「スキーム」についてです。

前回は対価の簡易的な計算方法についてご説明させていただきましたので、今回は医療法人のM&Aにおけるスキームについてご説明させていただきます。

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医療法人のM&Aにおけるスキームの選択肢

持分あり医療法人におけるM&Aのスキームは基本的に①持分譲渡②出資の払戻③役員退職金による清算の3つの方法を選択することが出来ます。

これに対して、持分なし医療法人の場合は基本的に③役員退職金による精算のスキームのみの選択となります。

したがって親族に医師や歯科医師がいないため「うちは絶対に第三者に譲る」というように承継方法が第三者承継の道で確定している医療法人場合は、持分あり医療法人の方が選択肢は多いこととなります。

医療法人のM&Aにおける売り手の課税関係

売り手における課税上の取扱いは下記のとおりです。

①持分譲渡スキーム

譲渡対価から取得費(通常は当初出資額)を控除した金額に20.315%の譲渡所得税が分離課税として課税されることとなります。

②持分の払戻

払戻金額から出資金相当額を控除した残額が「みなし配当」として総合課税で超過累進税率により課税されることとなり、最高55%の税率により課税されることとなります(ただし配当控除あり。)。

③役員退職金による清算

(役員としての勤続年数が5年超であることを前提として)退職手当等の収入金額から役員としての勤続年数に応じた退職所得控除額(※)を控除した残額の2分の1に相当する金額に対して分離課税により超過累進税率により課税されます。

※勤続年数20年以下部分は40万円、20年超部分は70万円を勤続年数に乗じた金額(最低80万円)

持分あり医療法人の場合、金額の多寡にもよりますが②の持分払戻スキームの場合は約半分の税金が課税される可能性があることから実務上はあまり選択されません。

課税上の有利不利を事前に検討して、①持分譲渡スキームと③退職金スキームを組み合わせることとなります(特に、持分の取得費(出資金相当額)部分に対する譲渡所得課税は生じないことも踏まえて組み合わせを検討する必要があります。)。

買い手における課税関係、資金調達、その後の相続対策

買い手にとってはできるだけ③退職金による清算のスキームで対価の支払をする方が、承継後の損金が大きくなり法人税の課税が軽減されることとなります。過大退職金は法人税の損金とはなりませんが、売り手においては過大部分も退職所得として取り扱われます(なお、医療法54条の配当禁止規定に抵触しないか注意が必要です。)。

買い手の資金調達の側面からは、①の持分譲渡スキームの場合は買い手自身の資金で売り手の出資持分を買い取る必要があることに対して、②払戻や③退職金の場合は売り法人の内部の資金を売り手に吐き出す形になる(ただし不足する場合は借入等で賄う)のでこれらのスキームの方が買い手の負担は軽減されることとなります。

買い手側のその後の出資持分に対する相続税課税を考えると、承継時に②払戻や③退職金の支払により出資持分の相続税評価額が低くなっている段階で持分なし医療法人に移行しておくと、その後の利益増加による出資持分の相続税評価額上昇による相続税負担を回避することが出来ます(払戻や退職金の支払いをしてもなお出資持分の相続税評価額が高額である場合は認定医療法人制度の活用も検討の余地があると考えられます。)。

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