基金拠出型医療法人は平成19年施行の第5次医療法改正で導入され、導入から20年近く経過していることから、この基金拠出型医療法人の理事長からのM&Aのご相談をいただくこともでてきました。
そこで今回は、基金拠出型医療法人の譲渡時における基金返還の留意点についてご説明させていただきます。
基金拠出型医療法人とは、出資持分のない医療法人の一類型であり、法人の活動の原資となる資金の調達手段として、定款の定めるところにより、基金の制度を採用しているものをいいます。
ここで基金とは、社団医療法人に拠出された金銭その他の財産であって、当該医療法人が拠出者に対して法令及び当該医療法人と当該拠出者との間の合意の定めるところに従い返還義務(金銭以外の財産については、拠出時の当該財産の価額に相当する金銭の返還義務)を負うものをいいます(厚生労働省ホームページより)。
基金には利息を付すことも出来ず、当初拠出額の返還のみにとどまることから、剰余金を分配しないという医療法人の基本的性格を維持しながら、その活動原資を基金として調達することにより、医療法人の財務的基礎を維持することが可能とされました。
基金拠出型医療法人において基金の返還は、ある会計年度(例えば3月決算の場合のX0年3月期)の貸借対照表上の純資産額が基金(代替基金を含む。)等の金額の合計額を超える場合において、その会計年度の次の会計年度(X1年3月期)の決算の決定に関する定時社員総会の日(例えば3月決算の医療法人の場合は3月と5月を定時社員総会の開催時期として定款に定めていることが多いと考えられますが、その場合はX1年5月に開催する定時社員総会の日)の前日までの間に限り、その超過額を限度として返還をすることができることとされています。
ここで、基金拠出型医療法人をM&Aで譲渡する場合、売主である基金拠出者は2点注意が必要です。
1点目は、基金の返還は定時社員総会の決議が必要になることです。「定時」なので定款で決められた時期です。つまり、M&Aをするから売主側で先に臨時に基金の返還の決議をしておくことはタイミングによっては出来ません。例えば3月決算法人で定時社員総会が3月と5月の場合で、M&Aの最終契約が完了して社員を売主から買主に入れ替えたのがX0年8月などのケースでは、社員の入れ替え直前のタイミングで基金の返還決議を臨時に行うことはできず、最短でも次のX1年3月の定時社員総会で買主となった社員が売主である理事長が拠出した基金の返還決議を行わなければ返還できなくなってしまいます。M&Aを検討する前から返還手続きを行っておくか、もし間に合わないのであればM&Aにおいて契約上返還の取り決めをする必要があります。
2点目は、基金の返還可能限度額は純資産の金額から基金の額等を控除した金額になることです。基金拠出型医療法人の場合は役員退職金スキームで譲渡することになると思われますが、返還決議のタイミングが遅れると純資産が0円以下になり基金の返還ができなくなる可能性があります。上記の例ではX1年5年の定時社員総会では返還可能額が基金拠出額に満たず、全額返金が出来なくなってしまいます。
基金の返還をする場合には、返還をする基金に相当する金額を代替基金として計上しなければいけません。相手勘定は繰越利益積立金となります。なお代替基金は、取り崩すことができません。
10,000の基金を返還した場合の仕訳は下記のとおりです。
基金 10,000 / 現預金 10,000
繰越利益積立金 10,000 / 代替基金 10,000
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