医師偏在と地方の医師不足の対策としての事業承継

これからますます地方での医師不足、医療機関不足が加速していくと考えられますが、その解決策の1つとして円滑な事業承継が挙げられます。

医師が都市部に集中しているなかで医師養成数が国の政策として減らされていくと、自ずとまず地方から医師不足が加速していきます。地方における既存の医療機関の医師が高齢化して休廃業していく中で、その地域での医療機関の継承や新規開業をする医師が少なければ、休廃業する医療機関数が上回ることとなるからです。

近年、医療機関(病院・診療所・歯科医院)の休廃業・解散が急増していて、直近では年間700件を超える休廃業を記録し過去最多とのデータも見受けられます。今後ますますこのような休廃業の傾向は続くと考えれますが、その最も大きな理由は経営者の高齢化や後継者不在によるものです。

国の政策として、医師は不足しているのではなく偏在が問題であり、絶対数はこれから人口が減少していくにあたって過剰になるため、医師数を減らしていこうと考えています。

例えば財務省の諮問機関である財政制度等審議会では、人口減少により2030年頃には医師が供給過剰になるので医学部定員の適正化が必要とされています。

また、歯科医師は今後70代以上の歯科医師が毎年約3,000人引退していくことになりますが、歯科医師数が過剰になっているとして歯科医国家試験合格者数を約2,000人に絞っているので、単純計算で毎年約1,000人ずつ歯科医師が減っていくことになります。

定員の推移と今後の医師の需給見込み

私の肌感覚で申し上げると、開業医や病院経営者である医師のご子息が医学部に進学した場合、親御様と同じ診療科に進み、やがては親御様の医療機関を継承するケースは珍しくありません。ただし、医療機関の経営者は原則医師又は歯科医師である必要があるため、親族に医師や歯科医師がいない場合は第三者承継による継承を検討することになります。親族内承継も第三者承継も難しい場合は残念ながら休廃業や解散することとなります。

親族内承継で問題となってくることの1つが、持分あり医療法人における出資持分の問題です。出資持分の払戻請求により、医療法人の資金繰りの悪化や出資者間の争いに発展する場合があります。また、後継者が健全な経営をすればするほど出資持分の価値が高くなり、将来の納税額が高くなってしまう問題もあります。出資持分は現金ではなく換金性にも乏しいため、出資持分の相続の際に場合によっては億単位の相続税の納税資金を相続人や後継者が別途用意する必要があります。これらの問題を解決するための制度が認定医療法人制度です。様々な要件を満たす必要がありますがこの認定医療法人制度を使って持分なし医療法人へ移行すれば、上記の資金繰りの悪化や出資者間の争い、納税の問題を無税で解決することが出来ます。令和8年末が期限となっていますが、厚生労働省は昨年11月の社会保障審議会医療部会でこの制度の延長をすることとし、今年8月の税制改正要望で延長の要望がされる予定です。

団塊の世代が全員後期高齢者になる2025年問題がありますが、この問題により考える必要があるのは医療を受ける患者側の人口構造の変化による医療費の問題だけではありません。医療機関経営者の高齢化が進むとともにそれを継承する若い世代の医師数が減っていくという医療機関側の人口構造の変化と、地域ごとの医師の偏在という問題とを掛け合わせて考える必要があります。

最後に

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